5.2 アジア企業の経営者
本節では、アジア企業の経営者に関連する項目を整理します。
5.2.1 選抜・移動
アジア企業は、家族(同族)経営が多いのが特徴です。
経営者はオーナー本人、その家族が多く、世襲となることが多いです。
韓国の「財閥(チェボル)」はその典型で、国を代表する大企業グループの多くが世襲49経営者によるオーナー企業です。
「財閥(チェボル)」経営者と、時の権力者(とその周辺)とによる政経癒着が発生しやすい傾向にあります。
- 国際的大企業に成長した現在、海外・国内投資家からは同族経営に対する厳しい目が向けられています50。
アジア企業は、雇用・昇進は縁故が強く影響し、重要な役職は家族・親族が占める縁故主義が広く見られます。
縁故が影響するのは信頼の拠り所となるためですが、これは集団主義の高さと関係し、また長期志向とも関係します。
- このような傾向は世界各地の家族経営にみられますが、法整備が十分でない高文脈文化でより強い傾向があります。
経営陣(管理職)候補の重要な基準は、縁故または「関係」によってオーナーからの信用・信頼の有無になります。
- その結果、経営者・役員の最有力候補は家族になります。
韓国の「財閥(チェボル)」は規模が大きくなったため、家族だけではグループ企業の経営者・役員が足りない状況です。
- 信頼できる外部経営者が必要となるため、(オーナーと同じ)出身地・出身校といった縁故等がある有能な社員が役員に登用されます51。
中国の国有企業は、経営者は共産党からの任命となります。
この場合、経営能力だけでなく、政治的観点からも考慮されることになります。
日本企業が中国に進出し現地スタッフを採用する場合、政治的観点からの考慮も必要となります。
個人間の信頼・信用が重要なため、経営者の交代は世襲が多く、欧米に比べて交代の頻度は少なくなります。
- 経営者の採用市場(ヘッドハンティング)では、アメリカが41%、ヨーロッパが35%を占める一方、アジアは16%を占めるに過ぎません。
5.2.2 報酬
アジア企業の経営者の報酬(第1位)は、アメリカ企業よりも多いとされます(図5.3参照)。
日本経済新聞 (2018) によると、「アジアの企業トップの年間報酬をみると、2017年は豚肉加工の世界最大手である中国・万州国際の万隆・最高経営責任者(CEO)が2億9100万ドル(約320億円)で首位、上位5人までを香港企業を含む中国企業が占め」ました。
- 大和住銀投信投資顧問の蔵本祐嗣氏によれば「アジア企業の報酬の高さについて、同族経営であるために「報酬の決定にCEOが関与し、報酬に関する規定が不透明な企業もある」」という背景があるようです。
出所) 日本経済新聞 (2018)
アジア企業は経営者の報酬だけでなく、取締役や部長クラスの給与も日本企業を上回っています(図5.4、図5.5参照)。
- 日本企業は、新入社員の給与は国際的に最も高い水準にありますが、部長クラスから取締役になるとアジア企業より少なくなります。
出所)図5.4と同じ
5.2.3 教育
アジアでも大学受験は熾烈で、「大学で一生が決まる」と一般的に考えられています52。
- 序列を強く意識する学歴重視社会は、権力格差の高さが影響しています。
大学進学率も高いため、差別化のために海外留学や大学院進学を目指す人も多くなっています。
大学進学率はアメリカ74%(2年制含む)、韓国71%、日本51%です。(教育再生会議 (2013))
人口100万人あたり修士号取得者数(2008年)は、アメリカ2158人、韓国1592人、日本586人です。人口100万人あたり博士号取得者数(2008年)は、アメリカ222人、韓国204人、日本131人です。
とくに2世経営者は、海外(大学院)留学を経験しています。
- 1990年代の資料によると、韓国30大「財閥(チェボル)」の経営者の1/2はアメリカ留学経験者、1/4は日本留学経験者でした(Edfelt (2010, p.204))。
経営学に対する評価は高いです。
- 韓国、台湾、香港、シンガポールは独立した(経営)学部をもっています。
経営大学院(ビジネススクール)は欧米名門校と提携し、分校を設立する国がみられます。
- 近年では欧米の経営大学院(ビジネススクール)と同等に評価されるようになってきました。
出所)中山(2019)
参考文献
ZUU online 編集部 (2016)「名門経営大学を魅了するアジア 中国、シンガポールで国際人材育成」
王青 (2021)「中国の過酷な受験戦争を勝ち抜いた若者が「寝そべり族」になってしまう理由」DIAMOND online
和場まさみ・小野田衛・安宿緑・安英玉 (2019a)「大卒でも財閥系大企業でなければ年収200万円台。韓国の高学歴貧困の厳しすぎる事情」ハーバー・ビジネス・オンライン
和場まさみ・小野田衛・安宿緑・安英玉 (2019b)「韓国、高学歴貧困の現状。「幼い頃の夢を叶える人なんていない」」ハーバー・ビジネス・オンライン
教育再生会議 (2013)「これからの大学教育等の在り方について(第三次提言参考資料)」
週刊東洋経済編集部 (2020)「サムスンが世襲決別宣言、韓国財閥は変われるのか」週刊東洋経済プラス
菅野朋子 (2021)「「体感定年51歳」韓国で仕事を辞めた人達のその後」東洋経済ONLINE
中山一貴 (2019)「ある中国のMBAスクールが欧米の名門を超えた」東洋経済ONLINE
日本経済新聞 (2017)「役員給与、アジア勢が上」2017年8月27日朝刊
日本は例外です。↩︎
将来役員になれるか(日本に比べ)比較的早い段階でわかるので、早期退社し起業する人が多いのがアジアの特徴です。韓国の現状については菅野 (2021)を参考にしてください。↩︎
学歴重視社会・競争社会は、若年層の失業問題などの社会問題を引き起こしています。中国の現状については王 (2021)、韓国の現状については和場ほか (2019a)、和場ほか (2019b)を参考にしてください。↩︎