3.2 アメリカ企業の経営者
本節では、アメリカ企業の経営者に関連する項目を整理します。
3.2.1 選抜・移動
Strategy& (2019)が行った、世界の上場企業における時価総額の上位2,500社を対象にした調査によると、アメリカ企業の経営者(最高経営責任者CEO:Chief Executive Officer)の平均像は、以下の通りです。 日本 アジア
2018年に就任したCEOの年齢の中央値は54才です。
内部昇格したCEOが79%で、外部招聘のCEOが21%でした。
新任CEOの94%が他企業での職務経験があります。
ヘッドハンティングが盛んで、プロ経営者(A社社長退任→B社社長就任)もいます。
- 新任CEOの26%が株式公開会社でのCEO経験を有しています。
海外での勤務経験を有するCEOは33%でした。
世界平均レベルですが、西欧諸国(63%)に比べると低いです。
Edfelt (2010, pp.50-52)によると、アメリカ企業は以下の特徴があります。
海外に居住・勤務経験のある経営者は1/3
「経営者に国際経験は重要?」との問いには、Yesは15%、Noは54%
「国際ビジネスに外国語は必要?」との問いには、同意と多少同意の合計が34%
新任CEOの85%がアメリカ国籍でした。
新任CEOの女性比率は1.1%でした。
Forbes JAPAN (2014)によると、アメリカの全企業の23%の780万社が女性が経営する企業であり、特に、ヘルスケア・教育サービス分野では、61%の企業が女性CEOです。
この20年間、女性の起業率は男性の2倍であることから、「ガラスの天井」を感じた女性が多く起業したと考えられます。
新任CEOの53%がMBA(経営学修士)保有者です。
- 世界平均(33%)を大きく上回ります。
民間と政府で相互に転職することがあり、「回転ドア」と呼ばれます。民間経営者が政府高官になることもあります。
移動の多さは、個人主義の高さや不確実性回避の低さから解釈できます。
3.2.2 報酬
- ウイリス・タワーズワトソン (2022) によると、アメリカ企業CEOの報酬(2021年度)の中央値は16.0億円でした(図3.6)。
- ダウ平均の構成企業でみると、経営トップの年間報酬で最高額だったのはナイキの5349万ドル(58.3億円)です(表3.2)。
順位 | 社長.CEO.名 | 社名 | 年収 | 前期比増減率 | 株式報酬の割合 | 従業員の年収に対する倍率 | 株価騰落率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ジョン・ドナホー | ナイキ | 58.3億円 | ー | 83% | 1935倍 | 28% |
2 | サティア・ナデラ | マイクロソフト | 48.3億円 | 3% | 69% | 257倍 | 52% |
3 | ジェームズ・ダイモン | JPモルガン・チェース | 34.5億円 | 0% | 79% | 395倍 | -10% |
4 | アレックス・ゴースキー | ジョンソン・エンド・ジョンソン | 32.2億円 | 17% | 61% | 365倍 | 7% |
5 | マイケル・ワース | シェブロン | 31.6億円 | -12% | 52% | 184倍 | -29% |
注)1ドル=109円で換算
出所)日経ヴェリタス(日経電子版)11
企業の経営トップの報酬が従業員の賃金の何倍かを示す数値をペイレシオ(pay ratio)といいます。
- アメリカ企業の経営者の報酬が高額である背景には、その報酬多くが業績連動報酬13であるためです。
業績連動報酬のなかでは、「あらかじめ決められた価格(図3.7では1円)で株式を購入できる」ストック・オプションが代表的存在です。
- ストック・オプションは、経営者にとって「業績向上⇒企業価値の向上⇒株価の上昇⇒売却益増」といった好循環に対するインセンティブとして有効な制度となり得ます。
出所)大和総研
3.2.3 教育
アメリカ企業のCEOは高学歴といえます14。
Edfelt (2010, pp.42-43)によると、アメリカ企業CEOの学歴は以下の特徴があります。
大企業CEOの98%が大卒で、専攻の内訳は工学21%、経済学15%、経営学13%です。
修士以上の学位をもつアメリカ人は、25才以上人口の10%に過ぎませんが、大企業CEOの67%が修士以上の学位を保有しています。
大企業CEOの保有する修士以上の学位の内訳はMBA40%、法学10%となりますが、MBA以外の学位のうち21%はPh.D.(博士号)です。
日本労働研究機構 (1998)の調査によると、アメリカ企業の人事・営業・経理部課長は32-40%がMBAを保有し、Ph.D.(博士号)保有者もいます(図3.8)。
アメリカにおいて、経営学は学問として広く認知されています。
- 全米の大学学部の22%、大学院修士課程の25%に経営学専攻があります(Edfelt (2010, p.43))。
アメリカ企業において、内部昇進・転職に伴う昇進に関わらず、昇進には職位に見合った能力が求められますが、その証明として学位が多く利用されます。
アメリカに限らず欧米では、「仕事」の内容、範囲、責任、権限などを「職務記述書」ないし「権限規程」などの様式に、誰がみてもまぎれのないように明確に決めています(濱口 (2013, p.30))。
採用は図3.9のように「必要なときに、必要な資格、能力、経験のある人を、必要なだけ」採用する欠員補充が原則となります(濱口 (2013, p.40))。
一つ一つの職業について、その職業を遂行する知識、経験、能力を兼ね備えた一人前の労働力に対する職種別の賃金が決まっています(濱口 (2013, p.85))。
出所)海老原 (2016)
参考文献
Edfelt, Ralph B. (2010). Global Comparative Management. SAGE.
Forbes JAPAN (2014)「アメリカ出世事情・女性CEOが誕生する理由」
Meyer, E. (2014). The Culture Map: Breaking Through the Invisible Boundaries of Global Business. PublicAffairs.(日本語版 樋口武志(訳)・田岡恵(監訳)(2015)『異文化理解力』英治出版.)
Strategy& (2019)「2018年 CEO 承継調査」
ウイリス・タワーズワトソン (2021)「ウイリス・タワーズワトソン、 『日米欧CEOおよび社外取締役報酬比較』 2021年調査結果を発表」
海老原嗣生 (2016)『お祈りメール来た、日本死ね』文春新書1105.
キャリハイ転職「「元軍人から高校からはじめたバイトまで」P&G、Apple等、米国時価総額トップ15人のCEOの経歴を調べた」
鈴木裕 (2017)「社長の報酬は社員の何倍?—米英で分かれたペイレシオ開示政策—」大和総研
日本労働研究機構 (1998)「国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム -日、米、独の大企業」
濱口桂一郎 (2013)『若者と労働』中公新書ラクレ465.