2.3 政治体制・法制度

  • 企業経営は立地する国家の政治体制・法制度に影響を受けます。

  • 本節では、まず政治体制について、政治体制の類型を整理します。

  • 次に法制度について、契約を守らせる強制力を学習した後、法体系の違いを整理します。

2.3.1 政治体制

  • 中村 (2006) よると、「どの程度多元主義的か」という基準によって世界各国の政治体制は3類型に大別できます。  

    • 多様な(主義・主張の異なる)政治主体を認める、その活動の自由が確保される、(選挙を通じた)政治主体間の競争が許容される、といった程度が高いほど、多元主義的であるといいます(表2.9)。
表 2.9: 政治体制の類型
政治体制 特徴
民主主義 政党や労組、業界団体などさまざまな組織が、それぞれの利益に適った政策や法律の実現を目指して互いに競合する。異なる意見を調整して公的な決定を下す役割は、自由で公正な選挙によって国民の幅広い支持を得た者(議員や大統領)が担う。
権威主義 支配的な特定組織(政党、軍など)とは異なる政治主体の存在を許容する一方、結社や政治活動に強い制限を課すという、いわば「限定された多元主義」。
全体主義 特定の国家目標とそれを実現するためのプログラムを持ち、プログラムの立案を全面的に担う単一の政治主体しか存在を許されない。組織指導者間の権力闘争はしばしば発生するものの、社会的利益の多様性を反映した複数の政治主体間の競争は、原理的に存在しない。
  • 民主主義の代表的国家であるアメリカやイギリスでは、選挙によって二大政党の間で政権交代が起こります。

  • 日本は民主主義国家であり、政党が多くあり公正に選挙が行われるにも関わらず、一党が長期に渡り政権を担っています。

  • アメリカやイギリスにおける政権交代は、「保守」系の政党と「リベラル」系の政党との間で起こっています。

    • 「保守」とは「伝統と慣習を重んじて急激な変化を望まない」考え方、「リベラル」とは「自由に変化を受け入れる」考え方です(茂木 (2021, p.170))。

    • ただし、具体的な(経済・外交)政策を各国で比較すると、「保守」系の政党の政策と「リベラル」系の政党の政策はさまざまで、また時代によって変化することもあります。

    • 「保守」系の自民党が長期に渡り政権を担っていますが、時の総理・総裁を出す派閥によって「保守」の内容は異なっています。

  • 1980年代までの韓国や台湾は、急速な経済発展を実現するために規制が多く設けられた権威主義国家でした。経済発展が実現した後、民主化が実現しています。

  • 全体主義の例としては、ファシスト政権期のイタリア、ナチス・ドイツ、かつてのイラクなどが挙げられます。

  • 中国は事実上の一党独裁で、3分類のなかでは(権威主義国家より)全体主義に近くなります。

2.3.2 法制度

  • 契約を守らせる強制力には、大別して関係性(relation)と法制度の2つ3があります(池尾・黄・飯島 (2001))。

    • 関係性(relation)による強制は「契約違反した場合に内集団から追放する」4というものです。

      • 集団主義の社会で内集団から追放される、すなわち外集団(敵)と見做され信頼が失われることは、そこで事実上ビジネスができなくなることを意味するので、契約履行の強制力となります。

      • 関係性(relation)による強制は、法制度が整備されてない(公権力が弱い)状況でも機能します。国家が形成される以前の古代にも存在しました。

  • 法制度による強制は「司法制度により処罰される」というものです。

  • 個人主義の社会では個人の能力によって信頼が得られるので、(ビジネス)ネットワークへの出入りが容易になります。このような場合、関係性(relation)による強制は機能しません。法制度による強制が必要になります。

    • 国境(内集団)をまたぐグローバルな取引においても、関係性(relation)による強制は機能しません。法制度による強制が必要になります。

    • 関係性による強制が主たる社会では、長期的視点から関係継続となりやすい一方、法制度による強制が主たる社会では、関係継続は契約の都度判断されます。

  • 歴史的にもそこのような事例がみられます。異なる文化・宗教をもつ広大な領土をもつローマ帝国では、そうした地域間での取引を可能とするために「ローマ法」が整備されました(山岸・ブリントン (2010, p.115))。

  • 多くのヨーロッパ諸国はローマ法やナポレオン法典に由来するシビル・ロー(制定法/大陸法)に基づいていて、一般的な規則や原理を個別の判例に適用します。

    • シビル・ローでは、議会制定法が典型的で中心的な「法」と捉えられ、判例(法)はそれを補完するものと位置付けられます(藤倉 (2014, p.322))。

  • イギリスとアメリカの法制度は、先例をもとに判決を下すコモン・ロー(判例法/英米法)に基づいています。

    • コモン・ローでは、判例の集積における判決理由の中から見出される個々の諸原則から形成される判例法こそが中心的な「法」であり、制定法はそれを補完するものと位置付けられます(藤倉 (2014, p.322))。

  • このような違いは法体系だけでなく、広く思考法の違いにも見られます。

  • また、法制度の違いが金融システム(における投資家保護の程度)の違いを通じて、経済発展に影響を与えるという研究も存在します(藤倉 (2014, pp.324-330))。

  • 日本は明治時代にドイツ法の影響を受けたためシビル・ロー(制定法/大陸法)に分類されますが、戦後にアメリカ法すわなちコモン・ロー(判例法/英米法)の影響も受けています(藤倉 (2014, p.320))。

参考文献

池尾和人・黄圭燦・飯島高雄 (2001)『日韓経済システムの比較制度分析』日本経済新聞社.

中村正志 (2006)「政治体制 Political Regime:制度と組織の構築物」日本貿易振興機構アジア経済研究所

藤倉孝行 (2014)「金融システムと法系論ー法的起源説からの一考察ー」成城大学社会イノベーション学会『社会イノベーション研究』、第9巻第2号、pp.317-362.

茂木誠 (2021)『世界史講師が語る教科書が教えてくれない「保守」って何?』祥伝社.

山岸俊男・ブリントン,メアリー・C (2010)『リスクに背を向ける日本人』講談社現代新書2073.


  1. どの国もこれら2通りのメカニズムを組み合わせて用いていますが、その組み合わせの比重には国ごとに差が認められます。↩︎

  2. 日本の「村八分」もその一例です。↩︎