2.2 文化
本節では、文化の類型について整理します。
まずHofstedeの国民文化比較について、6つの指標を学習します。
次にHallの文脈について、コミュニケーションの仕方や時間感覚の違いを学習します。
また適宜、補論6.1を参照してください。
2.2.1 Hofstedeの国民文化比較
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.3)は、コンピュータに組み込まれたプログラムになぞらえて、人の考え方・感じ方・行動の仕方のパターンをメンタル・プログラムと呼びます。
図2.3のように、メンタル・プログラムには3つのレベルがあるとされます。
最もベースにあるレベルは「恐怖、怒り、愛情、喜び、悲しみなど」人類共通のもので、遺伝によって獲得されます。しかし、これらの感情をどのように表現するかはそれぞれの文化のなかで修正されます。
中間レベルにあるのが文化です。人が成長する過程で社会環境(家庭、学校、職場など)から学習し獲得するもので、「あいさつ、食事、感情の表し方や抑え方、他人との距離の取り方、愛し方など」が含まれます。同じ社会環境(例えば、国)のなかで生きている人々は、少なくとも部分的には同じ文化を共有しています。
最も上にあるレベルは個人の性格で、それぞれの人に特有のものです。その人に特有の遺伝子によって受け継がれた特性と生後学習された特性の両方に基づいています。
Hofstede, et al. (2010)は、アンケート調査の結果から各国文化の特徴を比較分析しています。
最初の調査は1967年から1973年にかけて、多国籍企業IBMの世界40か国の社員を対象に行われた価値観についてのアンケート調査でした。
各国の社員は国籍が違うという点を除くとあらゆる点で似ていたたため、アンケートの回答には国民文化の違いが鮮明に表れることになりました。(Hofstede, et al. (2010, 日本語版 pp.27-28))
違いが見られたのが「権威との関係をはじめとする社会的不平等」、「個人と集団の関係」、「男性らしさと女性らしさの概念」、「不確実性とあいまいさへの対処の仕方」の4分野でした。
当初は4つの指標からなる分析でしたが、その後Hofstedeや他の研究者らによって対象国や調査項目が拡張されて、6つの指標からなる分析となっています。
2.2.1.1 権力格差(小さい⇔大きい)
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.54)は、権力格差を「それぞれの国の制度(家族、学校、地域社会のように社会を構成する基本的な要素)や組織(人々の労働の場)において、権力の弱い成員が、権力が不平等に分布している状態を予測し、受け入れている程度」と定義しています。
- 上下関係が厳しいのは当然のことと考える文化であると、この数値が高くなります。
権力格差の小さい国と大きい国の特徴をまとめると、表2.3のようになります。
権力格差の小さい国でも上下の関係は存在しますが、それは目的を果たすために必要な便宜的なものと捉えられます。上司や教師、親、また年長者など社会的地位が高くても、人として平等と考えます。
権力格差の大きい国では、社会的地位が高い人は人間としても優れているべきと受け止められます。最良な方法や正しい回答を知っていると期待されます。
権力格差の小さい国 | 権力格差の大きい国 |
---|---|
人々の間の不平等は最小限にすべきであり、人はみな平等な権利を持つべき | 人々の間に不平等があることは予測されているし、望まれる |
親は子供を、子供は親を平等な存在として扱う | 親は子供に従順さを教える。親や年長の親族に対して敬意を払うことは、一生に渡って続く基本的美徳である |
教師は生徒を、生徒は教師を平等な存在として扱う | 生徒は教師に敬意を払う |
教師は生徒が自発的にふるまうことを期待する | 教師は教室で全主導権をとることが期待される |
学習の質は、教師と学生との間のコミュニケーションと、生徒の優秀さによって決まる | 学習の質は、教師の優秀さによって決まる |
患者は医者を平等な存在として扱っており、積極的に情報を提供する | 患者は医者を目上の人として扱っており、診療は短く、医者が主導権を握る |
- 日本は世界の中間に位置します。アジア地域では最も権力格差の小さい国です。ただし欧米諸国と比較すると、権力格差は大きいです(図2.4)。
出所)表2.3と同じ
- 権力格差の小さい国はイスラエル、北欧諸国、アングロサクソン諸国(イギリス、ニュージーランド、カナダ、アメリカ)、ドイツなどです。権力格差の大きい国は、東南アジア諸国、中国、インド、ロシア、東欧諸国、中南米諸国、中東諸国、アフリカ諸国などです(図2.5)。
2.2.1.2 集団主義⇔個人主義
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.83)は、「集団主義を特徴とする社会では、人は生まれた時からメンバー同士の結びつきの強い内集団1に統合されている。内集団に忠誠を誓う限り、人はその集団から生涯に渡って保護される」、「個人主義を特徴とする社会では、個人と個人の結びつきはゆるやかである。人はそれぞれ、自分自身と肉親の面倒を見ればよい」と定義しています。
内集団の利害が個人の利害よりも優先される社会(集団主義社会)であればこの数値は低く、個人の利害が内集団の利害よりも優先される社会(個人主義社会)であれば、この数値が高くなります。
個人主義の社会では、自分を本質的に「個人」とみなします。集団主義の社会では、自分を「集団の一部」とみなします。
IBMのアンケートにおいて、「仕事の目標」に関する項目で次のような関連がありました。(Hofstede, et al. (2010, 日本語版 pp.83-86))
以下の項目を重視していた国が、個人主義の国であると考えられます。
個人の時間:自分や家族の生活にふり向ける時間的余裕が十分にある
自由:かなり自由に自分の考えで仕事ができる
やりがい:やりがいがあり達成感の得られる仕事である
以下の項目を重視していた国が、集団主義の国であると考えられます。
訓練:訓練(技能向上や新技術の修得のため)の機会が多い
作業環境:作業環境がよい(風通しがよく、照明が十分で、作業空間が適当であるなど)
技能の発揮:自分の技能や能力を十分に発揮できる
集団主義の国と個人主義の国の特徴をまとめると、表2.4のようになります。
集団主義の国では、子どもは成長するにつれて「内集団の一員である」と捉えるようになります。調和を保ち対立を避けるため、相手の面子を潰さないよう、話し手の顔色を伺い、意図をおしはかろうとするので、間接的なコミュニケーションが主流になります。この場合、コミュニケーションが成り立つかどうかの責任は聞き手にあります。
個人主義の国では、子どもは成長するにつれて「私」という視点から物事を捉えるようになります。自分の心の内を語ること、感じていることについて真実を語るのが、誠実かつ正直な人間の特徴と考えます。意見の衝突はより良い結果につながると考えられることから、対立を避けようはしないため、明白で直接的なコミュニケーションが行われます。この場合、コミュニケーションが成り立つかどうかの責任は話し手にあります。
集団主義の国 | 個人主義の国 |
---|---|
人は内集団の中に生まれて、その集団に忠誠を誓う限り保護される | 成人すれば、自分と身近な核家族だけの面倒を見れば良い |
子供は「私たちは」という視点から物事を考えることを学ぶ | 子供は「私は」という視点から物事を考えることを学ぶ |
内集団と外集団では、価値観の基準が異なる。排外主義的 | すべての人に対して同じ価値観が適用される。普遍主義的 |
内集団の中では常に調和が保たれ、直接対決は忌避される。 | 自分の心の内を語る人こそ、誠実な人である。 |
不法行為を起こすことは、本人と内集団にとって恥であり、面子を失うことである | 不法行為を起こすことは、罪の意識を掻き立て、自尊心を傷つけることである。 |
資産は親族と共有する | 所有権は個人のものであり、子供とも共有しない |
コミュニケーションはコンテクスト(状況)に左右されやすい | コミュニケーションはコンテクスト(状況)に左右されにくい |
- 日本は世界の中間に位置します。日本人は日本を集団主義の国と考えがちですが、それは欧米諸国と比較した場合に当てはまります。中国、韓国、台湾、東南アジア、中東、中南米諸国と比較した場合は、むしろ個人主義の強い国となります(図2.6)。
出所)表2.4と同じ
- 集団主義の国は中国、東南アジア諸国、中東諸国、中南米諸国、ロシア、ポルトガルなどです。個人主義の国はアングロサクソン諸国(イギリス、ニュージーランド、カナダ、アメリカ)、北欧諸国、ドイツ、フランスなどです(図2.7)。
出所)図2.5と同じ
2.2.1.3 女性性⇔男性性
IBMのアンケートにおいて、「仕事の目標」に関する項目でもう1つの関連がありました。(Hofstede, et al. (2010, 日本語版 pp.126-127))
権力格差や個人主義や不確実性の回避では、男女間の回答に一貫した差異は見られなかった一方で、この次元については男性社員と女性社員のスコアの間に一貫した差異が見られたため、「女性性(女性らしさ)」「男性性(男性らしさ)」と名付けられました。
以下の項目を重視していた国が、男性性の傾向が高い国であると考えられます。
給与:高い給与を得る機会がある
承認:よい仕事をしたとき、十分に認められる
昇進:昇進の機会がある
やりがい:やりがいがあり達成感の得られる仕事である
以下の項目を重視していた国が、女性性の傾向が高い国であると考えられます。
上司:仕事のうえで、直属の上司とよい関係が持てる
協力:お互いにうまく協力しあえる人と一緒に働く
居住地:自分と家族にとって望ましい地域に住む
雇用の保障:希望する限りその会社に勤務することができる
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.128)は、「男性らしい社会(感情面での性別役割が明確に区別できる社会)では、男性は自己主張が強くたくましく物質的な成功をめざすものだと考えられており、女性は男性より謙虚で優しく生活の質に関心を払うものだと考えられている」、「女性らしい社会(感情面での性別役割が重なり合っている社会)では、男性も女性も謙虚で優しく生活の質に関心を払うものだと考えられている」と定義しています。
男性性の傾向が高い国と女性性の傾向が高い国の特徴をまとめると、表2.5のようになります。
男性性の傾向が高い国では、設定された目標は必ず達成すべきものであり、絶え間ない努力が求められ、その結果成功した者は周りの人々から賞賛されます。
女性性の傾向が高い国では、成功は時の運でもあり、そこに執着するよりも、大切なひとと一緒にいる時間を重視し、社会の弱者への思いやりにあふれています。
女性性が強い傾向の国 | 男性性が強い傾向の国 |
---|---|
福祉社会が理想で、貧しい人、弱い人を助ける | 業績主義社会が理想で「強い者」「秀でた者」が支持される |
寛容な社会 | 欠点の修正を求める社会 |
生きるために働く | 働くために生きる。仕事は人生にとって重要な要素 |
男の子も女の子も泣いてもいいが、喧嘩してはいけない | 女の子は泣いてもいいが、男の子は泣いてはならない |
女性の美の理想は、メディアや有名人に影響される |
- 日本は自らに課した目標に向かって「道を極めていく」という傾向が顕著なため、世界的にみても男性性の高い国です(図2.8)。
出所)表2.5と同じ
- 日本のほかに男性性の傾向が高い国は米国・英国・中国・メキシコ・ドイツなど、女性性の傾向が高い国はスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランドの北欧5カ国、オランダが挙げられます(図2.9)。
出所)図2.5と同じ
2.2.1.4 不確実性回避(低い⇔高い)
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.177)は、不確実性回避を「ある文化の成員が不確実な、未知の状況に対して不安を感じ、それを避けるために信仰や制度を形成している程度」と定義しています。
不確実性回避の高い国と低い国の特徴をまとめると、表2.6のようになります。
不確実性回避の高い国では、予測可能性を高めれば不確実性を回避できると考えるため、多くの成文化された規則、制度があり、日々の生活の中にも様々な慣習的な規則があります。
不確実性回避の低い国では、基本的には結果さえ出ればやり方はどうでも良いと考えているので、仕事の進め方も人それぞれで、現場のことは現場に任され、ルールの運用も臨機応変となります。
不確実性の回避度が低い国 | 不確実性の回避度が高い国 |
---|---|
人生とは不確実なもの、不確実なことが自然。ルールや形式、構造にはこだわらない | 人生に絶えずつきまとう不確実性が脅威。それを取り除くために形式、ルール、規則が必要とされ、構造化された環境を求める |
ストレスも低く不安感もそれほどない | ストレスが高く、不安感がある |
トップマネジメントは日々のオペレーションにフォーカスする | |
専門家や学者より、常識や実務家を信頼する傾向がある | 医師や弁護士など、「その道のプロ」である専門家を信頼する傾向がある |
学生は学習のプロセス(自由で良いディスカッションの場)を求め、教師が「わからない」と答えても気にしない | 学生は「正しい答え」を求め、教師が全ての回答を示すことを期待する |
- 日本は世界的にみても不確実性回避の高い国です(図2.10)。
出所)表2.6と同じ
日本のほかに不確実性回避の高い国は中東諸国、中南米諸国、地中海沿岸諸国、韓国など、不確実性回避の低い国は日本と韓国を除いたアジア諸国、アフリカ諸国、アングロ系(イギリス、アメリカなど)と北欧諸国、オランダが挙げられます(図2.11)。
- 大陸ヨーロッパとイギリスの違いについて「イギリスとドイツは他の点では似ているが、不確実性回避に関しては文化の差がある」と、Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.177)は指摘しています。
出所)図2.5と同じ
2.2.1.5 短期志向⇔長期志向
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.222)は、「長期志向は、将来の報酬を志向する徳、なかでも忍耐と倹約を促す」、「短期志向は、過去と現在に関する徳、なかでも伝統の尊重、「面子」の維持、社会的な義務の達成を促す」と定義しています。
長期志向の国と短期志向の国の特徴をまとめると、表2.7のようになります。
長期志向の国では、たとえ結果が出るのに時間がかかっても、粘り強く、辛抱強く努力します。長期視点で考えるため、何が正しく、何が悪いのかは時と場合、状況によって異なり、真実は一つではないという考え方をします。
短期志向の国では、努力はすぐ結果に結びつかなくてはいけないと考えます。何が善で何が悪かの普遍的な指針があり、真実はたった一つと考えます。
短期志向の国 | 長期志向の国 |
---|---|
消費をすることへの圧力が強い社会 | 資源を節約して倹約を心がける |
努力はすぐに結果に結びつくためにする | 結果が出るまで辛抱強く努力する |
余暇は重要 | 余暇を重視しない |
最終損益に焦点が置かれ、四半期・当年の利益を重視する | 市場での地位に焦点が置かれ、将来の成長・利益を重視する |
自己を単一の自由な主体として考えるので、思考が分析的で、まずポイントを理解する | 自己を大きな全体の中の一部であると考えるので、思考が統合的で、全体像を把握してからポイントに向かう |
- 日本は世界的にみても長期志向の国です(図2.12)。
出所)表2.7と同じ
- 日本のほかに長期志向の国は韓国、台湾、日本、中国、シンガポール、ドイツ、ベルギー、スイスなど、短期志向の国は中東諸国、アフリカ諸国、中南米諸国、アングロ系、北欧諸国などが挙げられます(図2.13)。
出所)図2.5と同じ
2.2.1.6 人生の楽しみ方(抑制⇔充足(放縦))
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.263)は、「放縦の極は、人生を味わい楽しむことにかかわる人間の基本的かつ自然な欲求を比較的自由に満たそうとする傾向を示す」、「抑制は、厳しい社会規範によって欲求の充足を抑え、制限すべきだという信念を示す」と定義しています。
抑制の傾向の高い国と充足(放縦)の傾向の高い国の特徴をまとめると、表2.8のようになります。
抑制の傾向の高い国では、謹直で厳格な態度が信用され、プロフェッショナルであると受け取られます。
充足(放縦)の傾向の高い国では、人前では喜びや楽観主義を表に出すと期待されています(Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.273))。
Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.273)には、マクドナルドの「スマイル」について次のようなエピソードが紹介されています。
ロシアに来たときに、マクドナルドは非常に強力な企業文化を持ち込んだ。彼らはロシアの販売員を訓練することにした。彼らは店員に対し、三二歯をすべて見せるマクドナルドのスマイルを身に着けさせた。しかし、しばらくすると、マクドナルドの専門家は、ロシアの顧客が満面の笑みを見るとショックを受けることに気づいた。顧客たちは「なんで私を見てニヤついているの」と、店員を驚いた表情で見つめるのだった。マクドナルドは独自の調査を行い、ロシアでは知らない相手に満面の笑みを浮かべてもうまくいかないことに気がついた。ロシア人は知らない人に出くわした際に、ほほえみかけることはないのだ。ロシア人相手にそんなことをするような人がいれば、たいていは「この人はどうしたのだろう」と思われてしまう。
抑制的な国 | 充足的な国 |
---|---|
幸せであるとか、健康であると感じることが少ない | 幸せであるとか、健康であると感じる人の割合が多い社会 |
社会肯定的な情動を思い出しにくい、悲観主義的な社会 | 肯定的な情動を思い出しやすい、楽観主義的な社会 |
無力感を感じている:自分に起こることは自分ではどうしようもできない | 人生はコントロールすることができると感じている |
言論の自由は一般の関心事ではない | 言論の自由は比較的重視されている |
きつい、抑制の強い社会 | ゆるい社会 |
職場では、謹直で厳格な態度が信用され、プロフェッショナルであると受け取られる。 | 職場では、ポジティブシンキングが奨励される |
微笑みは疑惑の目で見られる | 微笑みかけることが規範 |
余暇はあまり重要ではない | 余暇は重要 |
- 日本はやや抑制的な傾向がある位置にあります。中南米諸国、アングロ系(アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど)と比較した場合は抑制的といえますが、中国、韓国、東欧、ロシアと比較した場合は、むしろ充足(放縦)の傾向があるといえます(図2.14)。
出所)表2.8と同じ
- 抑制の傾向の高い国はエジプト、パキスタン、旧ソビエト連邦諸国、ロシア、東欧など、充足(放縦)の傾向の高い国は中南米諸国、アングロ系などが挙げられます(図2.15)。
出所)図2.5と同じ
2.2.1.7 まとめ
Wursten (2019)は、Hofstedeの各次元の数値の傾向をまとめ、文化圏として7つに類型化しました。勝 (2018)が、日本語で図2.16のとおりにまとめています。
- この「文化圏」は「アジア」あるいは「中東」といった地域ではなく、Hofstedeの各次元の数値の傾向によって分類されています。
出所)勝 (2018)
「競争」文化圏は、低権力格差、個人主義、男性性、低不確実性回避のグループです。
- イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといったイギリスの歴史・文化の影響を受けた(アングロ)国が含まれます。
- イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといったイギリスの歴史・文化の影響を受けた(アングロ)国が含まれます。
「油の効いた機械」文化圏は、低権力格差、個人主義、男性性、高不確実性回避のグループです。
ドイツ、オーストリア、スイス(ドイツ系)といったゲルマンの国が含まれます。
「競争」文化圏とは、不確実性回避の指標が異なります。
「ネットワーク」文化圏は、低権力格差、個人主義、女性性、中不確実性回避のグループです。
スウェーデン、ノルウェー、フィンランドといった北欧(ノルディック)の国が含まれます。
男性性の傾向が強い「競争」「油の効いた機械」文化圏とは異なり、女性性の傾向が強いのが特徴です。
「太陽系」文化圏は、高権力格差、個人主義、男性・女性中間的、高不確実性回避のグループです。
イタリア、スペイン、フランス、といったラテン語、古代ローマにつながる(ラテンヨーロッパ)国が含まれます。
個人主義である点は「競争」「ネットワーク」「油の効いた機械」文化圏と同じですが、権力格差の指標が異なります。高不確実性回避である点は「油の効いた機械」文化圏と同じで、「競争」文化圏と異なります。男性性・女性性の指標は中間です。
「ピラミッド」文化圏は、高権力格差、集団主義、男性・女性中間的、高不確実性回避のグループです。
- アラブ諸国、イラン、イラク、ロシアのほか、ギリシャ、ブラジル、韓国、台湾、タイといったヨーロッパ、南米、アジアの国が入っています。
- アラブ諸国、イラン、イラク、ロシアのほか、ギリシャ、ブラジル、韓国、台湾、タイといったヨーロッパ、南米、アジアの国が入っています。
「家族」文化圏は、高権力格差、集団主義、男性・女性中間的、高不確実性回避のグループです。
高権力格差、集団主義である点は「ピラミッド」文化圏と同じですが、不確実性回避の指標が異なります。男性性・女性性の指標は中間です。
中国、インド、インドネシアが含まれ、アジアの地域に多く見られます。
「クラフトマン」文化圏は、中権力格差、個人・集団中間的、男性性、高不確実性回避という日本だけのグループです。
男性性、高不確実性回避である点は「油の効いた機械」文化圏と同じです。
個人主義・集団主義の指標は中間なので、個人主義の国と対したときは日本は集団主義的だと感じる一方で、集団主義の国と対したときは日本は個人主義的だと感じます。
「血縁以外の集団の利益を優先」することが特徴です。
2.2.1.8 データ
世界の各国・地域のデータに関心がある場合は、下の表で確認してください。
このほか特定の国についてグラフ化して比較できるサイト(英語版)や、複数指標間の相関関係がわかるようにグラフ化できるサイト(英語版)もあるので、参考にしてください。
2.2.2 Hallの文脈
出所)Amazon.co.jp
2.2.2.1 コミュニケーション
Hall (1976) は、世界中の言語コミュニケーションの型を、高文脈文化と低文脈文化に分類しました(図2.18)。
高文脈文化:話し手と聞き手との間の文化的背景・文脈の共通性が高いため、はっきり言わなくても(しぐさだけでも)、文書なしでもわかる
低文脈文化:話し手と聞き手との間の文化的背景・文脈の共通性が低いため、あいまいさを排除して言わないとわからない、文書がないと伝わらない
2.2.2.2 時間感覚
Hall (1983) は、世界の文化における時間感覚の型を、モノクロニック時間とポリクロニック時間に分類しました(図2.19)。
モノクロニック時間:スケジュールどおりに進むことを重視する
ポリクロニック時間:スケジュールにはとらわれず、最終的な結果を重視する
出所)株式会社日立システムズ “あなたの職場はハイコン?ローコン?”
高文脈社会はポリクロニック時間であることが多く、低文脈社会はモノクロニック時間であることが多いです。
- 日本は高文脈文化である一方で、時間感覚はモノクロニック2であることから、組み合わせとしては例外的です。
参考文献
Hall, Edward T. (1976). Beyond culture. Anchor Books.(日本語版 岩田慶治・谷泰(訳)(1993)『文化を超えて 新装版』阪急コミュニケーションズ.)
Hall, Edward T. (1983). The Dance of Life: The Other Dimension of Time. Anchor Books.(日本語版 岩田慶治・谷泰(訳)(1983)『文化としての時間』TBSブリタニカ.)
Hofstede, G, G. J. Hofstede, and M. Minkov (2010). Cultures and Organizations: Software of the Mind, Third Edition. McGraw-Hill Education.(日本語版 岩井八郎・岩井紀子(訳)(2013)『多文化世界 違いを学び未来への道を探る 原書第3版』有斐閣.)
Wursten, H. (2019). The 7 Mental Images of National Culture: Leading and Managing in a Globalized World. Amazon Books.
株式会社IW “「できるだけ〜」を使わない。多文化環境で学んだ外国人と働く上での心がけ。”
勝幹子 (2018), “「7つの文化圏」と「メンタルイメージ」で理解する、世界のビジネスの進め方,” Cicom Brains.
内集団(ないしゅうだん)は直観的に「われわれ」と感じる集団を、外集団(がいしゅうだん)は「やつら」と感じる集団を表します。(Hofstede, et al. (2010, 日本語版 p.13))↩︎
日本人の時間感覚がモノクロニックになったのは明治時代以降のことで、かつて日本人は時間にルーズだった という指摘もあります。↩︎