2.1 マネジメントの基礎

2.1.1 Taylorの科学的管理法

  • 経営学はおよそ100年前(20世紀初頭)に、実務家によって始まりました。

    • 19世紀にアメリカは産業革命を経験し大量生産が可能になった反面、規模が拡大した企業をそれまでの「経験」や「勘」で経営することは難しくなったというのが、経営学が生まれた背景です。
  • Taylor (1911)は、作業の効率(能率)を高めるために、科学的分析による作業の合理的な順序や作業量の設定、それに基づく生産の計画化や作業過程の効率的な管理方法をまとめました。

    • 製品1つ作るのにどういう動作をすべきか(標準動作)、1つの動作当りどのくらいの時間をかければよいか(標準工数)を設定し、そのことにより達成しうる仕事量(課業)を設定しました。

    • 従業員の評価は、課業(ノルマ)以上に達成した場合はボーナスを払い、課業に達しない者は、最初は注意、次に、訓告、戒告、そして最終的には解雇するようにしました。

    • 管理職も「計画」、「指揮」、「監督」と職能別に分け、1人に権限が集中しない組織を作りました。

Frederick Winslow Taylor

図 2.1: Frederick Winslow Taylor

出所)Wikimedia Commons

  • 三谷(2013, p.57)は、Taylorの科学的管理法について、以下のようにまとめています。

「管理者による分析とマニュアルで生産性は上がる」
- 作業生産性は時間・作業分析によって何倍にも上がり、作業環境の改善によっても上がる
- 人間は主に経済的動機によって動くので、段階的な賃率アップで動機づけるが、過重労働にならないように一定の最適労働量を定めるべき

  • 科学的管理法は「機械的な考え」と批判もされましたが、経営学の原点として現代にも基本的な考え方として残っています。

    • Mayoらは「客観的な労働条件」以上に「主観的な職場の人間関係」のほうが重要なのではないかという仮説に基づいて行った「ホーソン実験(Western Electric社のHawthorne工場における実験)」によって、Taylorの能率最優先・従業員の規律的な管理を軸とする「科学的管理法」に一石を投じました。

    • 三谷(2013, p.57)は、Mayoの人間関係論(的管理法)について、以下のようにまとめています。

「管理者と作業者の対話によって生産性は上がる」
- 作業生産性は、テイラー的な作業環境より、作業者の士気(モラール)にもっとも左右される
- それ(=士気)は、職場の上司や同僚との人間関係や相互の信頼感(といった定性的なもの)によって決まる

  • チャップリンのモダンタイムスは、テイラー的な管理の風刺といえます。

2.1.2 Fayolの経営管理プロセス

  • Taylorの関心が工場・現場の生産性(能率)向上を目的とした管理のあり方(management)であったのに対し、Fayolの関心は企業の経営管理のあり方(administration)にありました。

    • Fayolの定義する「経営」:企業に委ねられた資源から最大限の利潤を引き出すように努力しながら、企業をその目的に向かって指導すること

    • Fayolの定義する「管理」:経営がその進行を確保しなければならない6つの職能のうちの1つ

  • Fayol (1916)は、経営を以下の6つの活動(職能)に分類しました。

    • 「1. 技術活動」は、工場など製品生産を担当する製造部、新製品(技術)開発を担当する研究開発部が該当します。

    • 「2. 商業活動」は、生産に必要な原材料購入を担当する資材部、製品を販売を担当する営業部が該当します。

    • 「3. 財務活動」は、企業経営に必要な資金の管理(調達と返済)を担当する財務部が該当します。

    • 「4. 保全活動」は、企業が保有する財産と従業員の保護・管理を担当する人事部や総務部が該当します。

    • 「5. 会計活動」は、製品原価や収益の計算を担当する経理部が該当します。

    • 「6. 管理活動」は、「1. 技術活動」から「5. 会計活動」までの各種活動間の調整、また企業戦略立案を担当する経営企画部が該当します。

    • 現場主任、部門長、経営陣と役職が上がるにつれて、「6. 管理活動」により多くの時間を費やすことになります。

表 2.1: Fayolによる活動(職能)分類
活動 内容
  1. 技術活動
生産、製造、加工
  1. 商業活動
購買、販売、交換
  1. 財務活動
資本の調達と管理
  1. 保全活動
財産と従業員の保護
  1. 会計活動
財産目録、貸借対照表、原価、統制、等
  1. 管理活動
計画、組織化、命令、調整、統制
  • さらにFayolは、管理活動を5つのプロセスに分類しました。

    • 「計画(planning)」は、目的達成のための活動計画(年次予算や中期経営計画など)を策定することです。

    • 「組織化(organizing)」は、製造や営業といった事業活動が効率良く実行されるような組織構造(人と仕事の配置)を構築することです。

    • 「指揮(commanding)」は、各部門の役割と責任、そして目標数値を設定し達成に向けて、指示を与え、働かせることです。

    • 「調整(coordinating)」は、目標が達成できるように、部分最適になりがちな各部門・個人の活動のバランスをとることです。

    • 「統制(controlling)」は、目標が達成できているか(計画通りに活動がなされているか)をチェックすることです。

表 2.2: Fayolの経営管理プロセス
経営管理プロセス 内容
計画 将来を予想し、予算と行動予定を作る
組織化 事業の物的及び人的な構造を作る
指揮 各人が、自分に課せられた役割を果たすよう配慮する
調整 すべての活動を結合し、統一し、調和させる
統制 すべての活動が規則や命令に従って行われるよう監督する
  • 三谷(2013, p.58)は、Fayolの経営管理プロセスについて、以下のようにまとめています。

「管理者による経営・管理プロセスの遂行で生産性は上がる」
- 企業全体の生産性は、諸活動がきちんと定義・方向づけされ、相互に協調することで上がる
- そのためにもっともダイジなのは計画~統制の経営・管理プロセスを回していくことである

Henry Fayol

図 2.2: Henry Fayol

出所)Wikimedia Commons

参考文献

Fayol, Henri. (1916). Administration industrielle et généralee, Bordas S. A.(日本語版 佐々木恒男(訳)(1972)『産業ならびに一般の管理』未来社.)

Taylor, Frederick W. (1911). The Principles of Scientific Management, New York, London, Harper & Brothers.(日本語版 有賀裕子(訳)(2009)『新訳 科学的管理法』ダイヤモンド社.)

三谷宏治(2013)『経営戦略全史』ディスカバー・トゥエンティワン.