1.2 マネジメントに影響を与える要因
1.2.1 組織的文脈
企業(組織)は、売上、利益や生産性(効率)といった成果を上げるために活動しています。
その成果に影響を与えるのが、マネジメントのあり方(目的、プロセス、実践)です。つまり、マネジメントの良し悪しによって、企業の成果が異なってきます。
このマネジメントに影響を与える要因は組織的文脈といわれ、表 1.1 のように、外部要因と内部要因に分類できます。つまり、組織的文脈が異なると(望ましい)マネジメントのあり方も変わってきます。
外部要因は企業が存立する環境(国・地域)によって決まるもので、同じ国の企業であればどの企業にとっても同じものです。
内部要因は各企業で保有または設定するもので、同じ国の企業であっても企業ごとに異なります。
外部要因 | 内部要因 |
---|---|
経済、政治・法、思想、技術、人口、社会、社会文化、教育、その他 | 組織目的、戦略、構造、資源、強み、弱み、経験、事業規模・範囲、成長速度、構成員の知識・熟練・経験・資質、組織文化、シナジー |
出所)Edfelt (2010, p.12)
1.2.2 各国企業の共通点
どの国の企業であっても共通(少なくとも類似)しているのは、内部要因にあたる組織(経営)目的です。
企業(株式会社)の経営目的は、どの国でも「企業価値の最大化」で共通しています。
- 日本経済団体連合会 (2006, p.3) は、次のように経営目的を示しています。
ゴーイングコンサーンとしての企業の価値は、企業が将来にわたり生み出すことを期待されている付加価値の合計である。(中略)企業価値の最大化こそ経営者の使命であるが、近年、さまざまな次元で、企業価値の最大化に向けた経営戦略のあり方が議論の焦点となっている。
- ただし、企業価値を誰に対してのものと考えるか(株主、債権者、従業員、顧客、取引先、地域住民、地球環境などのどこまでを含めるか)については、国や企業によって差があります1。
- 2.1 では内部要因に関連して、本講義で使用するマネジメントの基礎を復習します。
1.2.3 各国で相違が生じる背景
「企業価値最大化」に至るプロセスは、国によって異なることがあります。
外部要因として、本講義では以下の3点から整理します。
「企業価値最大化」に至るプロセスは、同じ国でも時代によって変化することがあります。
時代が進むにつれて、人口・所得水準・技術水準などの外部要因が変化するためです。
かつて優れたマネジメントとされたものが、その後の時代・環境の変化によって、その有効性が失われる(それどころか弊害になる)ということもあります。
参考文献
Edfelt, Ralph B. (2010). Global Comparative Management. SAGE.
Hofstede, G. (1993). “Cultural Constraints in Management Theories” Academy of Management Executive. 7. 81-94.
リコー (2014, p.15))は、以下のように企業価値を広範に捉えています。
「企業価値は(中略)株主価値、お客様価値、社会的価値、従業員価値をそれぞれ高めることで総合的に向上していくものととらえています。新しい価値を提供し続け、地球環境問題や社会が抱える課題解決の一助となり、持続可能な社会づくりに責任を果たす、そのような企業活動を着実に進めることが、事業成長と一体となった企業価値の向上につながります。」↩︎There is something in all countries called “management,” but its meaning differs to a larger or smaller extent from one country to the other, and it takes considerable historical and cultural insight into local conditions to understand its processes, philosophies, and problems…. Management is not a phenomenon that can be isolated from other processes taking place in a society.↩︎